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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)3532号 判決

愛知県半田市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

小山齊

小関敏光

右訴訟復代理人弁護士

角谷晴重

名古屋市〈以下省略〉

破産者株式会社三晃貿易破産管財人

被告

主文

一  原告が、破産者株式会社三晃貿易に対し、名古屋地方裁判所昭和六一年(フ)第四五五号破産事件につき、金二四七万六六四九円の破産債権を有することを、確定する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(1) 破産者株式会社三晃貿易(以下、「破産会社」という。)は、海外商品取引所に上場する穀物、砂糖等の先物取引、主としてエス・アンド・ピー株価指数先物(以下、「本件商品」という。)の先物取引についての受託業務等を営んでいた。

破産会社は、昭和六一年一二月四日午前一〇時に名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、被告が、その破産管財人に選任された。

(2) 原告は、株式会社a建設の専務取締役をしている者であるが、破産会社との取引(以下、「本件取引」という。)以前には、商品取引所の商品先物取引についての知識、経験は全くない状態であった。

また、原告は別表4記載の取引以降については、破産会社との交渉をすべて原告の妻訴外Aに一任していたが、同人も先物取引については、全く知識、経験がなかった。

2  本件取引の経緯

(1)① 昭和六〇年五月中旬ころ、破産会社の営業担当者である訴外B(以下、「B」という。)から原告に対し、「先物取引に興味があるか。今やれば儲かる。」旨の電話があったが、原告は、全く興味がなかったので、これを断った。

② その後、Bは、原告の勤務する事務所を訪れ、原告に対し、持参した新聞の切り抜きを見せるなどして、「先物取引をすれば銀行で預金するより儲かる。私はあなたの高校の後輩だ。少しやってみないか。」と勧めた。原告は、この時も「興味がない。」旨伝えて断った。

(2)① その後、さらにBから原告に対し、電話があり、同様な勧誘がなされた際、原告は、「考えておく。」旨の返事をしたところ、その翌日である昭和六〇年五月二一日、Bから原告に対し、「取引をしてしまったから、どうしてもお金を払ってもらわないと困る。」旨の電話があり、原告は、「そんな取引を頼んだ覚えはない。」旨返答した。

② ところが、その翌日になって、B及びその上司に当たる訴外C(以下、「C」という。)が原告の事務所を訪れ、「私は原告の後輩に当たる者だ。取引を始めてしまったので、会社に対して責任をとらなければならなくなったから、なんとか顔を立てて欲しい。後輩を助けると思って契約をして欲しい。」旨懇願してきた。そこで、やむなく原告は、Cのために、早急(一ないし二週間)に取引を終了させることを条件に委託契約書に署名押印し、同月二三日に委託保証金名下に現金一五〇万円を破産会社に支払った。

③ なお、破産会社は、同月二一日、原告名義で、別表1記載の取引(以下、「第一取引」という。第二取引以降についてもおなじ。)を開始した。

④ また、この時点までに、原告は、海外先物取引に関しその取引内容が理解できるような説明は受けていない。

(3)① その後、CまたはBから、本件商品の取引価格に関する電話が一、二度程あったが、その際にも原告は、「取引を早く終わらせて欲しい。」旨念を押している。

② 昭和六〇年六月上旬ころ、原告はそろそろ取引を終了してもらえるものと思ってBに対し、「早く取引を終了するように。」と手仕舞いの指示を出したところ、Bは、「お客様の指示がないので取引を終了させていない。今終わらせるためには、あと一〇〇万円追加してもらう必要がある。右追加金がなければ規則によって売買できない。」旨の回答をなし、一〇〇万円の追加支払を要求してきた。

③ やむなく、原告は右金員の支払を約束し、同月七日、一〇〇万円を支払った。

その際、原告は、右金員を取りに来たBに対し、「いくら損が出てもいいから早く取引を終了させて欲しい。」旨指示している。

(4)① 同年六月一〇日、Cから原告に対し、「お客様に損を出して取引を終了させることは会社の信用にかかわるから、あと二〇〇万円出して欲しい。」旨の電話連絡があった。原告は、Cの申出に対し立腹しつつも、「とにかく早く終了させてくれ。」と指示し、右申出を了解した。

② 同月一四日、原告は、原告の事務所を訪れたCに対し、一日でも早く決済することを確約させたうえ、当面の取引を同人に一任して金二〇〇万円を交付した。

③ そして、破産会社は、原告名義で同月一二日、第二、第三取引を行い、その後、同月一九日に、第一、第二取引を仕切って第四取引を行った。

(5)① 原告は、Cが「必ず損を取り戻す。」と言ったのを信じ、Cからの連絡を待ったが、同年八月になっても全く連絡がなかったため、同月初旬ころ、Cに対し、「早急に取引を終了させて欲しい。」旨の指示を出した。

② ところが、破産会社は、同年八月二三日、原告名義で、第三、第四取引を仕切り、同日新たに、第五、第六取引を開始した。

③ そして、原告は、同年九月一日になって、同年八月二四日消印の郵便で、第三、第四取引を仕切ってあらたに第五、第六取引を開始した旨の通知が来ていることを知り、さっそく破産会社に対し、電話で、「第五、第六取引を頼んだ覚えはない。絶対に九月中旬に終了させてくれ。」と指示し、同社から必ず今月中旬に終了させる旨の確約を得た。

④ しかし、破産会社は、同月一三日に第五取引を終了させて第七取引を開始させ、その後原告の再三の要求により、ようやく同月一八日に第六取引を、同月二四日に第七取引をそれぞれ終了させて、全取引を終了させた。

(6) 右取引終了により、破産会社は、原告に対し清算金一九三万〇六七九円を返還すべきこととなったのに、「今後一切の異議を述べない旨の念書に判を押してもらえない限り支払えない。」としてその支払をしないまま、前記のとおり昭和六一年一二月四日破産宣告を受けるに至ったものである。

3  違法性

(1) 詐欺

破産会社は、以下のとおり、当初から原告より金員を騙取する意図のもとに、原告より委託保証金名下に金員を出捐させてこれを騙取したものである。

① 破産会社の従業員であるCやBは、原告が商品先物取引について無知、未経験であることに乗じ、全く取引を行う意思のなかった原告に対し、「必ず儲かる。銀行に預金するより儲かる。すぐに終了させるから後輩を助けると思って判を押してくれ。」と申し向けて委託契約書に押印させたうえ、「すでに取引を始めてしまった。」「あと一〇〇万円入れなければ取引を終了できない」「あと二〇〇万円入れれば損を取り戻せる。」等と虚為の事実を申し向けて、その旨誤信した原告をして委託保証金名下に合計金四五〇万円を交付させたものである。

②ア 破産会社は、顧客の無知に乗じ、顧客の「売り」または「買い」の注文をするのと同時に自社玉として顧客の注文とは反対の「買い」または「売り」の注文を海外の取引所または中間業者に出すという向かい玉を建てる方法で、顧客を損失に導き、破産会社はその顧客の損失に対応する額の利益を得ようとしていたのであり、破産会社の業務執行は、それ自体海外先物取引制度を利用した金員騙取の手段である。

イ 本件取引の場合、破産会社は、向かい玉として、原告の建玉と全く同数の反対建玉を建てており、当初から原告より金員を騙取する意図のもとに、原告から委託保証金名下に金員を出捐させてこれを騙取したものである。

(2) 海外先物取引規制に関する法律違反

① 破産会社は、本件取引につき、顧客である原告の指示を受けないで、殊に第五ないし第七取引にあっては原告の手仕舞いの指示を全く無視して、無断で原告の計算によるべきものとして取引をなしたものであり、これは「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」(以下、「海外先物取引規制法」という。)第一〇条第四号に違反するものである。

② 破産会社は、第四取引以降の取引について、顧客である原告の具体的な売買の指定を受けないで一任され、右取引をなしたものであって、これは海外先物取引規制法第一〇条第三、第四号に違反するものである。

③ 破産会社は、第四取引について、顧客である原告に対し、「損を取り戻せる。」と断定的判断を提供し、その取引の利益を保証して右取引をなさしめたものであって、これは海外先物取引規制法第一〇条第一、第二号に違反するものである。

④ 破産会社は、本件全取引が昭和六〇年九月二四日に終了したにもかかわらず、清算金一九三万〇六七九円を未だ原告に返還しておらず、これは海外先物取引規制法第一〇条第五号に違反するものである。

(3) 公序良俗違反

破産会社の前記(2)の①ないし④の行為は、商取引としての会社的許容範囲を逸脱しており、公序良俗に反するものである。

4  破産会社の責任

(1) 破産会社は、表向きは海外先物取引受託を業とする体裁をとりながら、実際は原告のような先物取引について無知、未経験である善良な市民から、商品取引委託保証金名下に金員を騙取することを日常業務とするものである。これは、会社自体がその企業活動において不法行為をなしたものといえ、民法第七〇九条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。

(2) 破産会社は、C及びBの使用者として、同人らがその業務を執行するについて原告に加えた損害につき、民法第七一五条第一項によりこれを賠償する責任がある。

5  原告の損害

原告は、前記2のとおり、合計金四五〇万円を破産会社に騙取され、同額の損害を被ったものである。

6  原告は、昭和六二年一月二八日、破産会社の名古屋地方裁判所昭和六一年(フ)第四五五号破産事件につき、右損害賠償債権金四五〇万円及び利息金二三万七三二八円の合計金四七三万七三二八円を破産債権として届出をなしたところ、同年三月三〇日、被告より右届出債権額のうち、金二八〇万六六四九円について異議を申し立てられた。

7  原告は、右損害賠償債権について、訴外Dより合計金四万円、訴外Eより合計金一三万円、Cより合計金一六万円の支払を受け、右合計金三三万円は、原告が確定を求める債権額に充当された。

よって、原告は、不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき、原告が、破産会社に対し、名古屋地方裁判所昭和六一年(フ)第四五五号破産事件につき、原告において既に支払を受けた合計金三三万円を控除した金二四七万六六四九円の破産債権を有することの確定を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1のうち、(1)の事実は認め、(2)の事実は知らない。

2(1)  請求の原因2の(1)の事実は知らない。

(2)①  請求の原因2の(2)の①の事実は知らない。

② 請求の原因2の(2)の②のうち、原告が破産会社に委託保証金として金一五〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

③ 請求の原因2の(2)の③の事実は認める。

④ 請求の原因2の(2)の④の事実は知らない。

(3)①  請求の原因2の(3)の①及び②の事実は知らない。

② 請求の原因2の(3)の③の事実のうち、原告が破産会社に委託保証金として金一〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

(4)①  請求の原因2の(4)の①の事実は知らない。

② 請求の原因2の(4)の②のうち、原告が破産会社に委託保証金として金二〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

③ 請求の原因2の(4)の③の事実は認める。

(5)①  請求の原因2の(5)の①の事実は知らない。

② 請求の原因2の(5)の②の事実は認める。

③ 請求の原因2の(5)の③の事実は知らない。

④ 請求の原因2の(5)の④のうち、破産会社が、原告名義で、昭和六〇年九月一三日に第五取引を終了させて第七取引を開始させ、同月一八日に第六取引を、同月二四日に第七取引をそれぞれ終了させて、全取引を終了させたことは、認めるが、その取引の経緯は知らない。

(6)  請求の原因2の(6)のうち、破産会社が清算金の支払をしていないこと及び破産会社が倒産に至ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

3(1)① 請求の原因3の(1)の前文及び①の事実は知らない。

② 請求の原因3の(1)の②の事実のうち、アは、向かい玉の場合、最終清算時において、破産会社と顧客との間で利益が相反することは認め、その余は知らない。イは、破産会社は、向かい玉として、原告の建玉と全く同数の反対建玉を建てていることは認め、その余は知らない。

(2)① 請求の原因3の(2)の①の事実は否認する。本件取引は、原告の追認または一任のもとになされたものである。また、本件商品は、海外先物取引規制法の指定商品ではなく、同法の適用はない。

② 請求の原因3の(2)の②の事実は否認する。

③ 請求の原因3の(2)の③の事実は知らない。

④ 請求の原因3の(2)の④の事実のうち、本件金取引が昭和六〇年九月二四日に終了したこと、破産会社は清算金を原告に返還していないこと及び破産会社が昭和六一年一二月四日破産宣言を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 請求の原因3の(3)の事実は否認する。

4(1)  請求の原因4の(1)の事実は否認する。

(2)  請求の原因4の(2)の事実は知らない。

5  請求の原因5の事実は否認する。

6  請求の原因6の事実は認める。

7  請求の原因7の事実は認める。

三  抗弁

原告及び同人の妻Aは、本件取引に関して、取引に入る者としての注意義務や取引を継続するか止めるかの判断、処理において、安易に破産会社の従業員の言動に左右されたものであり、一定の過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

理由

一  当事者

1  破産会社が、本件商品の先物取引についての委託業務を営んでいたこと、破産会社が、昭和六一年一二月四日午前一〇時に名古屋地方裁判所において破産宣告を受け、被告が、その破産管財人に選任されたことは、当事者間に争いがない。

2  証人Aの証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、株式会社a建設の専務取締役をしている者であるが、本件取引以前には、先物取引や証券取引の経験はなく、本件取引当時、先物取引に関する知識は全く有していなかったこと、原告は、第四取引以降については、破産会社との交渉をすべてAに一任していたが、同人も先物取引については、全く知識、経験がなかったこと、以上事実を認めることができ、右認定事実に反する証拠はない。

二  本件取引の経緯

1  破産会社が、原告の名義で、別表のとおり本件取引を行ったこと、原告が破産会社に対し、委託証拠金として、昭和六〇年五月二三日に金一五〇万円、同年六月七日に金一〇〇万円、同年一四日に金二〇〇万円をそれぞれ交付したこと、破産会社が、本件取引終了後、清算金の支払をしていないこと、破産会社が昭和六一年一二月四日に破産宣告を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  前記当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、乙第一、第二号証、第三ないし第五号証の各一、二、第八ないし第一一号証の各一、二、第二号証、証人Aの証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一号証、証人Aの証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、分離前相破告C本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の二、証人Aの証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)①  昭和六〇年五月中旬ころ、破産会社の営業担当者であるBから原告に対し、「先物取引に興味があるか。今やれば儲かる。」旨の電話があったが、原告は全く興味がなかったので、これを断った。

② その後、Bは、原告の勤務する事務所を訪れ、原告に対し、持参した新聞の切り抜きを見せるなどして、「先物取引をすれば銀行で預金するより儲かる。私はあなたの高校の後輩だ。少しやってみないか。」と勧めた。原告は、この時も「興味がない。」旨伝えて断った。

(2)①  その後、さらにBから原告に対し、電話があり、同様な勧誘がなされた際、原告は、「考えておく。」旨の返事をしたところ、その翌日である昭和六〇年五月二一日、Bから原告に対し、「取引をしてしまったから、どうしてもお金を払ってもらわないと困る。」旨の電話があり、原告は、「そんな取引を頼んだ覚えはない。」旨返答した。

② ところが、その翌日になって、B及びCが原告の事務所を訪れ、「私は原告の後輩に当たるものだ。取引を始めてしまったので、会社に対して責任があるから、なんとか顔を立てて欲しい。後輩を助けると思って契約をして欲しい。」旨懇願してきた。そこで、やむなく原告は、Cのために、早急(一ないし二週間)に取引を終了させることを条件に本件委託契約書に署名押印し、同月二三日に委託保証金名下に現金一五〇万円を破産会社に支払った。

その際、原告は、BまたはCから、アメリカの商品でシカゴ・マーカンタイル取引所のエス・アンド・ピー五〇〇の説明は受けたが、本件取引がどんな内容の取引かまた取引に入る方法として売りから入るか買いから入るか等についての説明は受けなかった。

③ なお、破産会社は、すでに同月二一日に、原告名義で、第一取引を開始している。

(3)①  その後、CまたはBから、本件商品の取引価格に関する電話が一、二度程あったが、その際にも原告は、「取引を早く終わらせて欲しい。」旨念を押している。

② 昭和六〇年六月上旬ころ、原告は、そろそろ取引を終了してもらえるものと思ってBに対し、「早く取引を終了するように。」と手仕舞いの指示を出したところ、Bは、「お客様の指示がないので取引を終了させていない。今終わらせるためには、あと一〇〇万円追加してもらう必要がある。右追加金がなければ規則によって売買できない。」旨の回答をなし、一〇〇万円の追加支払を要求してきた。

③ やむなく、原告は、右金員の支払を約束し、同月七日、一〇〇万円を支払った。

その際、原告は、右金員を取りに来たBに対し、「いくら損が出てもいいから早く取引を終了させて欲しい。」旨指示している。

(4)①  同年六月一〇日、Cから原告に対し、「お客様に損を出して取引を終了させることは会社の信用にかかわるから、あと二〇〇万円出して欲しい。」旨の電話連絡があった。原告は、Cの申出に対し立腹しつつも、「とにかく早く終了させてくれ。」と指示し、右申出を了解した。

② 同月一四日、原告は、原告の事務所を訪れたCに対し、一日でも早く決済することを確約させたうえ、当面の取引を同人に一任して金二〇〇万円を交付した。

③ なお、破産会社は、原告名義で、同月一二日、第二、第三取引を行い、その後、同月一九日に、第一、第二取引を仕切って第四取引を行った。

(5)①  原告は、Cが「必ず損を取り戻す。」と言ったのを信じ、Cからの連絡を待ったが、同年八月になっても全く連絡がなかったため、同月初旬ころ、Cに対し、「早急に取引を終了させて欲しい。」旨の指示を出した。

② ところが、破産会社は、同年八月二三日、原告名義で、第三、第四取引を仕切り、同日新たに第五、第六取引を開始した。

③ そして、原告は、同年九月一日になって、同年八月二四日消印の郵便で、第三、第四取引を仕切ってあらたに第五、第六取引を開始した旨の通知が来ていることを知り、さっそく破産会社に対し、電話で、「第五、第六取引を頼んだ覚えはない。絶対に九月中旬に終了させてくれ。」と指示し、同社から絶対に今月中旬に終了させる旨の確約を得た。

④ しかし、破産会社は、同月一三日に第五取引を終了させて第七取引を開始させ、その後原告の再三の要求により、ようやく同月一八日に第六取引を、同月二四日に第七取引をそれぞれ終了させて、全取引を終了させた。

(6)  なお、Aは、昭和六〇年五月三一日に同月二七日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、同年七月二日に同年六月二八日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、同年九月三日に同年八月三一日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、それぞれ残高照合書のとおり相違ない旨の残高照合回答書を破産会社に送付している。

(7)  破産会社は、清算金の支払に関し、「今後一切の異議を述べない旨の念書に判を押してもらえない限り支払えない。」としてその支払をしないまま、昭和六一年一二月四日破産会社宣告を受けるに至ったものである。

以上の事実が認められ、右認定事実に反する証人Cの証言及び分離前相被告C本人尋問の結果は、前記甲第一号証、証人Aの証言及び原告本人尋問の結果に照らすと、採用することができず、他に右認定事実に反する証拠はない。

三  破産会社の業務

成立に争いのない乙第一三、第一五、第一六号証、証人Cの証言(ただし、前記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  破産会社は、香港商品取引所の大豆・砂糖、ニューヨーク商品取引所の砂糖、シカゴ・マーカンタイル取引所のエス・アンド・ピー株価指数先物を銘柄とする顧客の右市場に対する注文取次の委託業務を行っていて、従業員は最盛期で一七名であったが、昭和六〇年八月ころより顧客との契約に関するトラブルが続き、営業社員の退社が続いた。

2  破産会社は、シカゴ・マーカンタイル取引所のエス・アンド・ピー株価指数先物については、シカゴ・マーカンタイル取引所の取引員であるクレイトン社かバシフィックエンタープライズの東京出張所に注文を出していたが、顧客の注文にかかる建玉のほぼ全部について、同種、同数量、同限月の反対売買の関係に立つ破産会社の自己玉(いわゆる「向かい玉」)を建てており、その結果顧客と破産会社の利害が終始相反する関係となる操作を行っており、右向かい玉の操作は顧客には全く知らされていなかった。

3  シカゴ・マーカンタイル取引所のエス・アンド・ピー株価指数先物については、顧客より預かる保証金は、一枚金一五〇万円であり、受託手数料は、一枚について金一五万円であったが、顧客から預託された委託保証金は、かなりの部分、他に送金することなく破産会社において管理し、会社の経費に充てて費消してしまっている。

以上の事実が認められ、右認定事実に反する証拠はない。

四  破産会社の不法行為責任

1  前記三の認定事実によると、破産会社の業務の実態は、顧客の判断に基づく売買注文を受託代行し、主にその手数料収入により利益を上げるという先物取引仲介業者の正常な業務形態とはおよそ掛け離れ、先物取引に関する知識のない者を強引に海外先物取引に勧誘して、顧客に隠れてほとんどすべての場合に顧客の建玉と反対売買の関係にたつ同数量の向かい玉を建て、顧客に損失を与えると同時に会社の利益となる自己玉の利益を取得するとともに、本来取引差損金の支払担保として海外の取引業者または取引市場に送金預託すべきものとされる委託保証金のかなりの部分を送金せず、破産会社の経費に取得するなど、顧客からの預り金であるはずの委託保証金を破産会社の利益とすることを破産会社の業務執行の目的としていることを推認することができる。

2  破産会社は、向かい玉として、原告の建玉と全く同数の反対建玉を建てていることは、当事者間に争いがなく、この事実と前記二の認定事実とを総合すると、右1の破産会社の業務執行の実態は、本件取引においても異ならないこと、すなわち、破産会社は、海外先物取引の知識も経験もない原告に対し、言葉巧みに勧誘し、本件取引の仕組みも十分説明しないまま、強引に取引を開始させ、原告の手仕舞い要求に対して、取引終了に必要であるなどと虚偽の事実を述べて、その要求をかわして次々と委託保証金を追加徴収し、原告に無断で取引を注文するとともに、原告の建玉と反対売買の関係にたつ同数量の破産会社の向かい玉を建て、原告にとって不利な時期を逃さず原告の建玉を手仕舞いさせ、原告に損害を与えると同時に破産会社はその損害に相当する利益を取得するに至ったという本件取引の経過を認めることができる。

また、前記二の(6)によると、Aは、昭和六〇年五月三一日に同月二七日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、同年七月二日に同年六月二八日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、同年九月三日に同年八月三一日現在の建玉、保証金及び差損益金の残高について、それぞれ残高照合書のとおり相違ない旨の残高照合回答書を破産会社に送付しているが、証人Aの証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、Aは、Cから、「既に取引が始まっているから仕方がない。」あるいは「取引後一〇日経過しているので取消できない。」と言われたため、やむをえず右書面を破産会社に送付したものであることが認められるから、Aが、残高照合回答書を破産会社に送付しているからといって、原告が、取引内容を理解し、自主的に取引を行ったものであるということはできない。

3  右1及び2によれば、破産会社は、当初から右1の業務執行の目的を有しているにもかかわらず、これを秘し、誠実に海外先物取引を受託するかのように装って原告を欺罔し、海外先物取引の委託保証金名下に、金員を騙取したものであり、右の業務執行の目的自体が破産会社の経営方針に他ならず、本件取引は、会社組織ぐるみで行ったものであるということができる。したがって、原告のその余の違法性に関する主張を判断するまでもなく、破産会社は、原告に対し、民法第七〇九条による不法行為の責任を負うことになる。

五  原告の損害

前記二で認定したとおり、原告は、破産会社に、本件取引の委託保証金名下に合計金四五〇万円を交付しているから、右相当額の四五〇万円が原告の被った損害ということができる。

六  過失相殺

被告の主張する過失相殺の抗弁について判断するに、以上認定の不法行為は、破産会社が組織的に行った故意行為であり、前記二の本件取引の経緯から原告に過失があるという事情を認めることはできないし、原告の過失を認めるような証拠はない。

七  破産債権額について

原告が、昭和六二年一月二八日、破産会社の名古屋地方裁判所昭和六一年(フ)第四五五号破産事件につき、右損害賠償債権金四五〇万円及び利息金二三万七三二八円の合計金四七三万七三二八円を破産債権として届出をなしたこと、同年三月三〇日、被告より右届出債権額のうち、金二八〇万六六四九円について異議を申し立てられたこと、原告は、右損害賠償債権について、訴外Dより合計金四万円、訴外Eより合計金一三万円、Cより合計金一六万円の支払を受け、右合計金三三万円は、確定を求めるべき債権額に充当されたことは、当事者問に争いがない。

八  結論

以上の事実によれば、原告が、破産会社に対し、名古屋地方裁判所昭和六一年(フ)第四五五号破産事件につき、原告において支払を受けたことを自認する合計金三三万円を控除した金二四七万円六六四九円の破産債権を有することの確定を求める原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日高千之 裁判官 渡辺修明 裁判官 大善文男)

〈以下省略〉

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